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東京地方裁判所 平成10年(ワ)8983号 判決

原告

橋爪莊一郎

ほか一名

被告

竹林誠二

ほか一名

主文

一  被告らは各自、原告らに対し、それぞれ金三七〇七万一三六一円及びこれに対する平成九年三月三〇日から支払済みまで年五分の割合による金員の支払をせよ。

二  原告らのその余の請求をいずれも棄却する。

三  この判決は、第一項に限り仮に執行することができる。

四  訴訟費用はこれを二分しその一を原告らの負担に、その一を被告らの連帯負担とする。

事実及び理由

第一申立(原告ら)

一  被告らは各自、原告らに対し、それぞれ金六〇〇七万八一六四円及びこれに対する平成九年三月三〇日から支払済みまで年五分の割合による金員の支払をせよ。

二  訴訟費用は被告らの負担とする。

との判決ならびに仮執行の宣言を求めた。

第二事案の概要

一  本件は、いわゆる自爆事故により、自動車の同乗者が死亡したが、死亡した同乗者の両親が、自動車の運転手に対して民法七〇九条に基づき、自動車の運行供用者に対して自動損害賠償保障法三条に基づき、それぞれ損害賠償の支払を訴求した事案である。

二  争いのない事実等

1  本件交通事故の発生

(一) 日時 平成九年三月三〇日午前二時頃

(二) 場所 埼玉県越谷市蒲生一丁目一四番九号

(三) 被告車両 普通貨物自動車(練馬四六ひ四一四三)

(四) 運転者 被告竹林誠二(以下「被告竹林」という。)

(五) 被害者 橋爪尚(以下「亡尚」という。)

2  本件事故態様

本件事故は被告竹林が被告車を運転し、訴外亡尚が被告車に同乗中に、被告竹林の速度超過・飲酒・居眠り運転が原因でセンターラインを越えて、反対車線の電柱に激突し横転するに至った。

3  亡尚の死亡

亡尚は本件事故により、肋骨骨折、肺損傷、頸椎骨折の傷害を受け、平成九年三月三〇日午前九時八分にせんげん台病院において死亡した。

4  被告城北興業有限会社の運行供用責任

被告城北興業有限会社は、被告車両を保有して、これを自己の運行の用に供していたものである。

5  相続

訴外亡尚の実父である原告橋爪莊一郎及び実母である原告橋爪紀子は、亡尚の財産を各二分の一の割合で相続した。

第三争点

過失相殺(好意同乗)及び亡尚及び原告らの損害

第四裁判所の判断

一  過失相殺(好意同乗)について

被告らは、本件において亡尚は、事故当日、被告竹林と飲酒した後、被告車両に同乗し、かつシートベルトを装着していなかったもので、亡尚にも三〇パーセントの過失を認めるのが相当であると主張している。この点、甲第八一号証、乙第一号証ないし第五号証、第七号証、第八号証、被告竹林の本人尋問の結果によれば、以下のような事実を認めることができる。

1  本件の事故の直接の原因は被告竹林の居眠り運転であるが、被告竹林と亡尚がともに飲酒をした後、被告車両に同乗していることは争いがない。本件において、客観的に居眠り運転について飲酒が影響を与えていることは否定できないところである。また、運転距離が相当であったことからすると、通常であれば、運転開始前にもその危険性は十分認識可能であったというべきで、亡尚がそのような危険な状況を認識して同乗した事実は、過失相殺の事由として評価せざるを得ない。もっとも、本件において、亡尚は、被告竹林に飲酒運転を積極的に勧めたりした事実は認めることはできず、また、走行中も速度超過等の危険な走行を挑発したような事実は認められない。

2  本件において亡尚がシートベルトを装着していなかったと認めることができる。しかし、運転手である被告竹林自身もシートベルトを装着しておらず、また、亡尚にシートベルトの装着を勧めた事実は認められない。また、本件の事故態様は被告車両が道の左側にあった電柱に衝突し、横転したというもので、そのことから被告車両の一番左側の助手席に乗車していた亡尚に最も強く事故の衝撃が加わったことが強く推認される。

このように運転者であって乗員にシートベルトの装着をさせるべき被告竹林において、そのような行為を全くしていないことや、亡尚がシートベルトを装着していなかったとしても、そのことが被害を拡大したとは認められないことを総合すると、本件においては、亡尚がシートベルトを装着していなかったことを過失相殺の事由として考慮するべきではない。

以上の事実を総合すると、亡尚について過失相殺として認められる割合は一五パーセントと解するのを相当とする。

二  亡尚の損害

1  治療費 金五〇万〇〇一三円

(当事者間に争いがない)

2  交通費 金六四二〇円

(当事者間に争いがない)

3  逸失利益 金六〇一三万七九六〇円

(原告請求金六八四一万二五一一円)

原告は、王子製紙株式会社(以下、「王子製紙」という)に就職が内定しており(甲第五号証)、右会社は東証一部上場の大手企業であることから、亡尚の逸失利益は、三五歳までは王子製紙のモデル賃金に、三六歳以降は、財団法人労務行政研究所一九九六年一一月一〇日発行の「労政時報春闘別冊シリーズ」一九九七年版「モデル条件別 昇給・配分」(以下労政モデルという)に、六一歳から六六歳までは賃金センサス平成八年第一巻第一表の大学卒の計数によって計算すべきであり、また、退職金も逸失利益に計上すべきと主張する。

しかしながら、逸失利益は、将来の予測に関わることであり、一企業における賃金は、将来における、その企業をとりまく経済環境や企業内での個人の実績によって大きく左右されるものであって、いまだ就職が内定していたに過ぎない亡尚の逸失利益を、これに大きく依拠して算定することは妥当でなく、また、退職金については現時点では抽象的な可能性の段階にとどまるものというほかない。

一方、亡尚は、大学を卒業して(甲第六号証)大手企業に就職が内定し、まさにこれから社会においてその力を発揮しようとしていた矢先に事故に遭い不慮の死を遂げたもので、将来における昇級の可能性等を全く考慮しないことは逆に相当でない。そこで、平成八年度の賃金センサスの大卒計の全年齢平均(金六八〇万九六〇〇円)を用い、生活費として五〇パーセントを控除したうえ、ライプニッツ係数(四四年=一七・六六二七)を用いて中間利息を控除した金六〇一三万七九六〇円を逸失利益として認めることとする。

4  慰謝料 金二〇〇〇万円(原告請求金二六〇〇万円)

本件における諸事情を考慮すると、本件において認められる慰謝料の額は金二〇〇〇万円と認めるのが相当である。なお、搭乗者傷害保険が平成一〇年四月七日に金五〇〇万円を支払った事実は、本件においては慰謝料算定においては考慮しない。

5  原告ら固有の慰謝料 なし(原告請求金一〇〇〇万円)

本件において認められる諸事情を考慮しても、右慰藉料とは別個に原告ら固有の慰謝料を認めることはできない。

6  葬儀費用 金一二〇万円

(原告請求金三六三万三三九四円)

原告らは葬儀費用として右原告請求額を支払ったことは認められるが(甲第四二号証ないし第七九号証)、葬儀費用の性質も考慮し、金一二〇万円を相当因果関係ある損害として認める。

7  損害合計額

以上の原告らの損害を合計すると損害額は合計金八一八四万四三九三円になる。これから被告らからの損害填補金五〇万〇〇一三円(当事者間に争いがない)を控除すると、金八一三四万四三八〇円となる。これに先に認めた亡尚の過失相殺割合一五パーセントを原告ら側の過失相殺として控除しするとその額は金六九一四二七二三円となる。原告らは右損害の各二分の一を相続したから、原告らの損害額は各金三四五七万一三六一円となる。

8  弁護士費用 金二五〇万円

(原告請求額 各金五〇〇万円)

本件の訴訟としての難易度等を考慮すると、弁護士費用としては各二五〇万円が相当である。

三  結語

以上によれば、原告らの請求は各金三七〇七万一三六一円及びこれに対する本件不法行為の日である平成九年三月三〇日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める限度で理由があるので、これを認容し、その余の請求は理由がないのでこれらをいずれも棄却することとし、訴訟費用については民事訴訟法六四条本文、六五条但書、仮執行宣言について同法二五九条一項に従い主文のとおり判決する。

(裁判官 馬場純夫)

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